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2002.3.2(くもりときどきあめ)
『サムライ』
「今日のお客さんねぇ、サムライだったんだよね。」
「はあ?」
聞いているキャディさんの顔がゆがんだ。
「グリーンでボール拭くじゃない。渡すときに”すまん”ってしぶい声で云われてさぁ。」
「それがサムライなの?」
「うーん、”すまん”の”ん”が”ぬ”にちかかった。」
「・・・すまぬ?」
「うん、多分そんな感じ。」
キャディさんたちは話しながらゲラゲラ笑った。
「でもね、わたしのことも”むすめ”って呼ぶの。」
「・・・むすめ?」
「うん、おかしいでしょ?キャディさん、とかじゃないのよ。”むすめ”って呼ぶのよ。なんかさぁ、
浪人ぽかった。」
キャディさんたちはまた一段と大笑いした。
2002.3.3(はれ)
『クラブチャンピオン』
ティグランドでお客さま同士がふざけあっていた。
「今年1年は俺もクラブチャンピオンか・・・」
「・・・まだそんなこと云ってんの?」
「だってそうなんだから、俺は1年間はそのつもりで言い続けるよ。」
「そんなの10月でとっくに終わってるって。」
「違うよ、10月から1年間はクラブチャンピオンなんだから。」
「そう思ってるのは自分だけでもう、みんな次に取ることしか考えてないってば。まーだ、
そんなこと云ってんの?はいはい、早く打って。」
なるほど、本人以外はそういうもんなのかぁ、としみじみ感じ入るキャディさんだった。
2002.3.5(はれ)
『いかがなものかと』
スタートしてすぐのことだった。
やっとグリーンに乗っただけのボールに遠くからキャディさんが
「上ってますよー!重いですよー!思いっきり打ってくださいねー!」
と大声で云うとお客さまは本当にめいいっぱい強く打ってきた。
「わ〜、入るーっ!?」
コロン・・・カップに入った音がすると喜ぶ顔とガックリする顔とが交差する。
そしてガックリする顔をした人が
「・・・いきなりそれはちょっと、、、いかがなものかと・・・」
連日ある政治家のニュースで持ちきりのご時世ならではの一言でした。
2002.3.6(はれ)
『運勢』
ハウスの玄関に3人のキャディさんがやってきた。
「バック取り交代だよー」
「あと宜しく〜」
さて、3人が玄関に立つとそこら中が水びたしだった。
「ちょっとこれ、水まきすぎじゃん?」
「びちょびちょ」
「支配人やりすぎだよね」
そう、さっき支配人の姿を見かけたので、紛れもなくこれは支配人の仕業だった。
しばらくしてお客さまの車が入ってきた。
荷物を下ろしてトランクを閉めるとお客さまは駐車場に行き、車を停めてからクラブハウスへ向かう
階段を軽快に上ってきた。
「おはようございまーす!」
キャディさんたちはあらためて大きな声で挨拶をした。
「おは・・・」
お客さまも挨拶を返そうとしてくれたが、そのとき手に持っていたセカンドバックを落としてしまった。
「・・・・・。」
びちゃびちゃのアスファルトの上に。
「・・・なんてこった、」
お客さまはびちょびちょに濡れたカバンをそっと掴むと泣き顔になった。
キャディさんたちは笑うのを我慢しつつも「タオルは・・・・いいですか?」とお客さまを気遣ってみ
たがそのままハウスの中に入ってしまった。
「あ〜あ、支配人のだね。」
勝手に支配人のせいにしている・・・。
「なんか、今のお客さんって、今日の占いカウントダウンで運勢悪かったっぽいよね。」
あははは、と笑ってみたりする。
そして一番年下のキャディさんが云った。
「きっと、今日のゴルフは、シャンク!シャンク!シャンク!・・・ですね。」
「・・・恐ろしいやっちゃな。」
「マジ、云えないよね、そういうこと。」
2002.3.7(くもり)
『グローブ』
「あれ?グローブがない!」
ティグランドでお客さまが自分のポケットを全部調べた。
次にキャディバックを調べてカートのかごの中も調べて・・・
「おかしいなぁ、どっか落としたのかな」
スタート時間を過ぎてしまったのでキャディさんは早く探して打ってくれと内心思っていた。
「どうする?ショップに行って買ってくる?」
・・・今から買いに行くですって?
キャディさんはぎょっとした顔をお客さまに見られないようにした。
もう、前の組はグリーンを終わって次のホールに向かっているところだった。
後ろには次の組のカートが止まっていてお客さまたちが今か今かと素振りをしているところだった。
戻れるわけないじゃん、キャディさんは口の中で呟いた。
すると、同伴者の1人が「あっ、俺のを貸してやるよ!」と云った。
なんで気が付かなかったんだろう!
みんなグローブをキャディバックの中に2つや3つ入れてる人もいるはずじゃないか。
一つ貸してくれれば良かったのだ。
「はい、打ったら返してね。」
・・・使ってるグローブ貸すなよ、、、(-_-;)
2002.3.9(くもり)
『遠球先打』
「今日は、すっごく疲れた!」
椅子にどすんと座るとキャディさんは肩で大きく息をした。
「もう〜〜〜〜、なんでわかんないのかなぁ。グリーンでね、一番近い人が一番先にボール持
ってくんのよ!あんたのは一番最後ってことがなんでわかんないのかなぁー。」
「たぶんその人一生わかんないと思うよ。」
「だろうね。」
2002.3.10(はれ)
『マナー』
「おまえ、邪魔だってば!」
「?」
お客さまがパットをしようとすると同伴者にむかってそう云った。
偶然だと思うがいつもカップを挟んで反対側にボールがあるのでお客さまが打とうとするとき
いつもカップの向こう側の正面に立っているのだ。
「邪魔なんだよ、いるんだったら動くな!」
「・・・?」
茶店に着くとお客さまたちはカートをおりて茶店の中に入ったが、いつも怒られているお客さ
まはすぐに出てくると
「キャディさん、下手で迷惑かけてすみません。」
と申し訳なさそうに云った。
一つ前のホールで17も叩いてくれたよな・・・と思いながらもキャディさんはすました顔で
「ゴルフには、あんまり行かれないんですか?」
と何気に聞いてみた。
「まだ初めて1年なんです。教えてもらったりしてるんですけど、なかなか・・・」
それにしては当たってるほうじゃん、とキャディさんは思った。
お客さまは茶店の中にいる同伴者のほうを見て苦笑いをした。
キャディさんはクラブ洗いながら
「コースに来たときはマナーを教えてもらったほうがいいですよ。」と云った。
お客さまがきょとんとしているのでキャディさんは続けた。
「ボールを打ったら、当たったり、飛んだりすることは当たり前のことなんですけど、そうい
うことは練習場でもどこでもできるじゃないですか。朝から◯◯さんに怒られてばっかりでし
たけどそういうの、今教えてもらってて良かったと思いますよ。」
お客さまはなんとなく頷いてキャディさんの話を聞いてくれた。
「だって、怖い人だったらもっと怒られてますよ。今日は知ってる人ばっかりだし、◯◯さん
が教えてくれたから良かった、って思わなきゃ。」
「・・・そっか、そうですよね。」
普段はそんなことはお客さまに云ったりしないけれど、なんとなくこのお客さまはとてもいい
方だったし、このお客さまならわかってくれると思ってキャディさんはそんな話をした。
そして、このお客さまはいいゴルファーになるんじゃないかなって、思うのだった。
2002.3.12(はれ)
『花粉症』
くしゅんっ!
お客さまは花粉症であるらしかった。
「テレビで云ってたけど、ヨーグルトがいいらしいぞ。」
「え?ヨーグルトって、ブルガリアヨーグルトとか?」
「そうそう、ブルガリア。俺はよくばりや。」
「・・・。」
静かなティグランドだった。(^_^;)
2002.3.13(はれ)
『狙い目』
「ねえ、14番ホールなんだけど。なんでみんなバンカーを狙いたがるんだろう。」
「越えると思ってんじゃないですか?」
後輩にあっさりと云われてキャディさんは肩で息を付いた。
右も左もO.B.がなく、左にドックレックした14番はフロントティからバンカーまで190ヤード。
バンカーはフェアウェイの左にあるが、狙いはフェアウェイの右だとキャディさん達はいつもお客さまに
ご案内する。バンカーまで190ヤードだが、バンカーを越えるのはさらにキャリーで30ヤードは打って
いかないと、バンカーにつかまってしまうのだ。しかも、バンカーを越えたからといって、先はラフで凸凹
したライと、ちょっとでも左にキックしようものならセーフではあるが隣のホールに転がり落ちてしまうの
だ。
「バンカー越えたって、ライは悪いし、どーせセカンド打ってもグリーンには乗らないし、せっかく教えて
あげてんのに、お客さん達ってなんで云うこと聞かないんだろう。」
キャディさんは呟いた。攻め方を教えるのがキャディの仕事なのにそれを聞こうとしないお客さまにはそれ
以上何を云っても無駄なのだ。
「だからわたし、打ってみてくださいって云います。」
「・・・それが一番いいかも。」
「好きなようにさせとけばいいんですよ。だいたい、バンカー入ってますから。」
「・・・。」
2002.3.14(はれ)
『ハーフ』
もうそろそろハーフ終わろうかというときだった。
お客さまがスコアカードを見つめていた。
そして呟いた。
「キャディさん、もう、インコース行かなくていいようにもう、72叩いたよ。」
「・・・はあ、」
2002.3.15(はれ)
『手袋講座』
キャディバック講座が好評なキャディさんは手袋講座も考えていた。
なんかいいアイディアはないかといつも目の前にいる4人の仲間に話を聞くことにした。
「わたしのはもう、聞きましたよね、手袋ひっくりかえしてはめてるってやつ。」
「覚えてるよ、右手の手袋をひっくりかえして左手にはめてんでしょ?」
「はい、笑うに笑えなくてあのときは辛かったです。」
キャディさんたちはお腹をかかえて笑い転げた。
「わたしもあるよ、でも、わたし、聞いたのに。」
ゆきちゃんが云った。
「え?何を聞いたの?」
さつきちゃんが身を乗り出した。
「だから、手袋ひっくりかえしてるやつでしょ?お客さんにね、なんで手袋反対にしてるんですか?って
聞いたよ。」
みんな言葉を飲み込んだ。
そんなことを面と向かって聞けるなんてゆきちゃんくらいのもんだろうということだった。
しかし、ゆかちゃんが新たに新ネタを提供してくれた。
「この前、お客さんね、右手に手袋してたのよ!」
一瞬、全員が硬直したのがわかった。
「まさか、右で打っているのに右に手袋してるってこと?」
「そうなのよ、なんで右にしてんのかなぁって、ずっと不思議に思ってた。」
キャディさん達は大爆笑。
「でもね、なんで右にしてるのかって、聞きたくて、聞きたくて、・・・」
「まさか聞いたなんで云わないでしょうね!」
息も絶え絶えにお腹を抱えて笑いながら誰かが云うと
「聞いたのよ!」
とゆかちゃんが云うので全員目が点になった。
それも一瞬で、また全員で机をバンバン叩いて笑い出した。
「なんて云ったの?お客さん?」
「ラウンド中、ずっと気になってて、なんで手袋右手にしてるんですか?って聞いたのね。」
「あはは!本当に聞いたんだ。」
「もちろん!だって気になって仕方なかったんだもん。」
「何て云ってた?」
「え?右手にするんじゃないんですか?って云われた。」
ぶーっ!
はーっっはっはっはっは!
キャディさん達は涙を流して笑い出した。
箸が転がっても笑うお年頃・・・のようで。
2002.3.16(はれ)
『足跡』
1番ホールは左ドックレックのロングホール。
狙いはフェアウェイセンターよりやや右だと云うのに210ヤード先の左のバンカーに入れる人が多い。
「あ〜、越えた、越えた!」
キャディさんはお客さまにわからないように首を傾げる。
そう云う人にかぎってバンカーにつかまっているのだ。
セカンド地点に行くとお客さまはさっさとバンカーの先を目指して歩いていく。
キャディさんはとことことバンカーまで走って行くとそーっと中を覗き込んだ。
・・・あった。でも、これって、・・・・キャディさんは取り敢えずどんどん歩いて行くお客さまを引
き留めることにする。
「お客さまーっ!バンカーですよー」
なんだって?
首筋を後ろから引っ張られるように急に立ち止まったお客さまは慌ててバンカーまで戻ってくると、そ
こにあるボールを見てがっくりと肩を落とした。
「んだよ、これ!こんなの出せるわけないじゃん!見てよこれ、足跡の中に入ってるんだよ!足跡の中!」
散々悪態をついてどうにもならないないことがわかるとお客さまは仕方なさそうにバンカーに入った。
足場を作ってボールを打つ。
飛び出した球は運悪くあごに当たって跳ね返りあまり距離が出なかった。
「打てるわけないよ、こんなの!足跡の中に入ってんだぜ?なんでならして行かないんだよ、頭に来る!」
お客さまの怒るのも無理はない。
悪いのはバンカーをならしていない人だ。
「こんな足跡の中に入ってるなんて!なんで俺がこんなとこから打たなくちゃいけないんだ。俺も足跡そ
のままにして行く。」
・・・え?
お客さまはバンカーから出ると云ったとおりに自分の打った跡をそのままにしてすたすたと歩いて行って
しまった。
「ちょっと、・・・?マジで?」
キャディさんはお客さまの背中を見つめながら口の中で呟いた。
なんてこったい!?
子供じゃあるまいし、駄々をこねるみたいに行ってしまうなんて。
確かにバンカーの足跡は運が悪かったと思う。
でも、自分が足跡だったから、次にバンカーに入った人も同じように足跡から打ってもらわなくては、な
んて考え、とても賛成はできない。
そしてキャディさんはそんなお客さまに今日一日お付き合いしなくてはならないということが、とても悲
しくなった。
2002.3.19(はれ)
『福嶋プロ!?』
うわ〜〜〜、妹だ。
ほんとに妹さんなんだ。
そっくり!・・・・声がそっくり。あの福嶋晃子に。
福嶋晃子・・・プロのそれは紛れもない妹さん。
超・超・有名じゃんっ、福嶋晃子プロって。
妹さんなんだぁ。
すごーい。妹さんでも超・感激だよ。
6番ホールはバックティのティグランドからはグリーンが見れない。
左の斜面がせり出てきていて、ほんの20ヤード前のレギュラーティからはグリーンは正面に見えるのに
バックティからだとまるで景色が違う。
キャディさんはボールの行方が良く見えるようにティグランドの右側ギリギリに立った。
福嶋妹さんと一緒に来た男性プロ2人がティショットを打つ度にキャディさんは身を乗り出してボールの
飛び出す方向に視線を移す、が、早すぎて見れない・・・。
もう、早すぎるっちゅうに、(--;)
キャディさんはもっとボールが見やすいように場所を変えることにした。
そして足を動かした瞬間体のバランスが右側に傾いた。
・・・ティグランドの右側は、すぐ崖だった筈。
「わぁーっっっ!」
キャディさんはティグランドに両手をひっかけてしがみつき、まさに崖から落ちかける人となった。
頭の上から男性プロから有り難いお言葉がかかった。
「キャディさん、そんなところでO.B.にならんといてね。」
「・・・。」
2002.3.20(はれ)
『迷キャディ』
「おい、名キャディ、これどっちに切れる?」
キャディさんがお客さまのボールを拭いているときにプレーヤーが同伴者に聞いた。
「どっちに切れるかって?俺、迷ってるほうの迷キャディだからなぁ。」
「・・・。」
2002.3.21(あめのちはれ)
『ホールインワン!』
「ただいまー」
キャディさんがハーフラウンドを終えてキャディ控え室に帰ってきた。
「おかえり、ゆかちゃん。」
「うん、ただいま。」
ゆかちゃんは手袋を外しながら「あのね、お客さんがホールインワンした。」
「え?」
「17番で。」
「えっ!ほんと?」
その場にいた7、8人くらいのキャディさんたちが全員で「おめでとー!」と拍手しながら喜びあった。
「グリーンに乗ってコロコロコロって、」ホールインワンの瞬間を思い出しながら説明するゆかちゃんに対して
妹分のさつきちゃんが横やりを入れた。
「ドンって、飛んだでしょ。」
「おお、もちろん!」
誰が飛ぶか!ティグランドでっ。間髪を入れずに突っ込みが入る。
「保険は?」と誰かが云った。
「入ってる。」とゆかちゃんが答えるとまた全員の拍手が盛り上がる。
「100万?」
「100万!」
いっそう拍手が盛り上がる。
そして最後のチェックポイントは、
「プライベート?」
「プライベート!」
・・・そりゃあもう、キャディさんたちは大騒ぎさ!
しばらく拍手と歓声が続きました。
2002.3.22(はれ)
『打球事故寸前』
「もう、今日のコンペ、わたしのこと狙ってるとしかいいようがなかったわ。」
「当たりそうになったの?」
「1番で、わたしのお客さんはまだグリーンから出てないのに後ろが打って来ちゃって、わたしはカートのとこ
でクラブを片づけてたんだけど、ダイレクトでわたしの左側にボールが飛んで来たのよ。フォアーも何にもない
んだから頭きちゃうわ。」
キャディさんは続けて「3番もよ、お客さんがまだグリーン歩いてるのに、後ろの組ったらグリーンから離れた
カート道にいるわたしのところに打ってくんのよ、思いっきり“オービー!”って叫んでやったわよ。」
キャディさんは体すれすれに飛んで来たボールがあまりに強烈だったのでまだ怒りがおさまっていない様子だ。
「わたしなんか当たったことありますよ。」
「え?ほんとに?」
後輩のキャディさんの落ち着き払った声にはっとした。
「バンカーからトップしたボールがすねに当たりました。」
「すねっ!?」
そりゃあまた痛そうなところに、、、
「よけようと思っても、体が動かないんですよ。あ!って思ったときには当たってますもん。」
「怖〜。っていうか、よけれないなら力入れたらどお?」
ふむっ!・・・キャディさん2人は一緒に体に力を入れて顔を見合わせて笑った。
「でも、すねは力入んないかも・・・」
2002.3.23(はれ)
『ショートホール』
キャディさんは17番ホールにやってくるとカートを止めた。
カートから降りてすぐに距離をお客さまに伝えようとする。
「グリーンエッジまで150ヤードです。」
「150?」
「はい、エッジまでですね。」
「150ね?」
「ええ、エッジまで。」
「150でいいの?」
「はい、エッジまでですね。」
「150ね?」
「・・・。」
お客さまは150と聞いてもう何番で打とうかと悩み始めた様子だ。
お客さまは最後まで人の話を聞かない人が多い。
キャディさんにはまだ続きがあった。
「あの、すみません。最後まで話を聞いてください。」
「まだなんかあんの?」
「はい、150ヤードはエッジまでですからね。」
「ピンまでじゃないの?」
「・・・。」
だからはじめっからエッジまで、って云ってるでしょー!
聞けよ、人の話を!(-_-;)
2002.3.24(はれ)
『キャディさん』
「ここのキャディさんたちは若いねぇ〜」
「はい、平均が24歳ですから。」
キャディさんはお客さまにそう答えた。
ついでに「わたしが、上から2番目ですよ。」と笑ってみせた。
「・・・本当に?そりゃすごい。」
キャディさんは年齢よりも若く見られがちなのでいつもわざとこの台詞を付け足すことにしていた。
ティグランドにはカートが2台。
2組のコンペだった。
キャディさんは1組目。さっきのお客さまは後ろの組だった。
「ねえ、ねえ、キャディさん。」
お客さまはそろりそろりとキャディさんに近づいてきた。
気持ち声を小さくするとこう云った。
「わたしの組のキャディさんが一番年上じゃない?」
キャディさんはゆっくりと首を45度動かした。
「・・・はい。(^_^;)」
「やっぱりね。」
2002.3.25(はれ)
『指定練習日』
日本プロ選手権大会の出場をかけた予選会が全国の6会場でおこなわれた。
その前日は指定練習日。
「ちょっとおー、ロング2オンしちゃうよ!」
練習ラウンドに付いたキャディさんが帰ってきた。
「ふーん、何番?」
1番ホールの576ヤード、16番ホールの539ヤードのロングホールは共に打ち下ろしでアマチュアでも
飛ばず人なら軽々と2オンしてしまう。まあ、プロなら2オンも当たり前か、、、
「12番!」
「ふーん、12番ねぇ、・・・え?じゅ、12番っっ!?」
雑誌をペラペラめくっていた手が止まり、思わず顔色が変わる。
「12番って、バックティから?」
「もちろん。だって練習ラウンドだよ!」
「うん、そうだよね、・・・12番?乗っちゃうのー?マジでー?」
12番のロングはバックティから609ヤードだ。
乗るか、普通・・・
「ただいまー!すっごい飛ぶよ、ロング2オンしちゃった〜」
次々に帰ってくるキャディさんたちがプロのゴルフを目の前にしてやや興奮気味だ。
「えー、そっちも乗ったの?何番?」
「あのねー、5番。」
「・・・ご、5番!?」
「うん、3人のうち2人乗せてきた。あと1人は20ヤードくらい手前。」
「マジでー!?すごーい!」
5番は560ヤードのロングで左ドックレック、さらに上りのホールなので2オンしたことがあるなんて話し、
今まで聞いたこともなかったのに!
「すごいよ、やっぱ違うよプロは。」
「ものすごい飛ぶの!終わってからあんまり距離ないね、って云われちゃった。」
翌日はそんなプロたちが日本プロ出場をかけて闘うことになる。
2002.3.26(あめのちはれ)
『予選会1日目』
全員かちこちに固まっている。
緊張して、緊張して、緊張しまくっているキャディさんたち!?
そう、何を隠そうプロの試合なんてみんな初めての経験なのだ。
日本プロ選手権大会の予選会がおこなわれている。
プロたちはいたって普通、というか試合が仕事なわけで、緊張している人も中にはいるかもしれないけれど
キャディさんたちほどではない。
プロの試合のときは、「距離は云わなくていい」と云われていた。
一般のお客さまはすぐにキャディさんに残り何ヤード?と聞いてくるがプロたちは一切聞いてこないから云
わなくていいというのだ。
しかも、ショートホールも云わなくていいというからキャディさんたちはびっくりした。
プロは自分で距離を計算して自分の判断で打ってくる。
さらにプロは自分のクラブは自分で持って行くのでキャディさんはクラブを渡すことがあまりなかった。
グリーンに乗ったらボールマークもしなくていい。
プロは自分のボールは自分でマークするのでキャディさんはボールを拭けばいい。
誰かがホールアウトすると必ずピンを持ってくれるので、キャディさんはその間に預かったアプローチを持
って次のホールに着くまでにブラシで洗うとプロのバックに間違わないようにクラブを入れていく。
この間違わないように、というのがとても大事だ。
間違えて人のクラブを使ったら2打罰・・・同じ組で同じアイアンを使ってるプロがいると、非常に困る。
常に間違えないようにチェックしながら、ときどきはプロにも「すみません、間違えてませんよね?」と確
認しつつ、細心の注意を払わなければならない。
キャディさんたちの表情もいつもよりも硬いのは仕方ないようだが、それにしても1人1人のプロの優しい
こと!ドライバーを預かるときも「すみません」なんて頭まで下げて云ってくれる人が何人もいるし、帰っ
てくるキャディさんたちが口々に云うのが「みんな、すごくいい人!」。
日頃我が儘なアマチュアや酔っぱらいおじさんたちに愛想を尽かしているキャディさんたちはプロの礼儀正
しさ、爽やかさを目の前にびっくりしている・・・というのが正直なところだろう。
初めてのプロの試合で知らず知らずにプロに迷惑をかけていたところもあるかもしれないが、キャディさん
たちにはとても良い経験になったのでないだろうか。
2002.3.27(くもりのちはれ)
『予選会ファイナルラウンド』
所属プロが予選1日目を単独トップで5アンダーとした。
周囲の期待がピークに達したとき、その組に付くキャディさんと云えば・・・
「・・・胃が痛いよー」
「もう、しっかりしてよ!」
「だって、プロがもし駄目だったら・・・」
「あんたのせいに決まってるでしょーがっ!」
「ほらー!やっぱそうなるんでしょう!?」
「あったりまえじゃないの!」
・・・試合終了後。
「ああ〜良かったぁ。」
「お疲れさま。良かったね、プロ1位で通過!」
「うん、良かったぁー」
「わたしのとこのプロもね、すっごい上手くて風が強かったでしょ、アプローチなんか、あっ、トップした!
って思ったらつつつーって止まっちゃって“上手い!”って、やっぱプロは違うよねぇ。」
「そうそう、うちもプロが「あっ!トップした!」て思ったら、そのままOBしちゃって、、、」
「えっ!何それ!?まずいじゃん!」
「うん、だから本当に良かったぁ、通って。(^_^;)」
「・・・なんなのよ。(-_-;)」
「あとね、すっごい気になるプロがいて、、、」
「何?格好よかったの?」
「うんん、1番からずーっと思ってたんだけどプラスチックの2段ティを使ってるプロがいたの。」
「・・・何それ。」
「本当にいたんだってば!あれってプロで使ってる人ってあんまり見ないと思わない?」
「つーか、いないでしょ、普通は。」
「だからね、同じ組のプロ達に云われた。“たぶん、そのティ使ってんのは1人だけだと思う”って。」
キャディさんは続けた。
「でもね、“これは折れないし、なくならないんだよ。”って云ってた。」
「まあ、確かにね。」
「“頼むから紐の付いたやつだけにはしないでね”って云われてた。」
「・・・。」
2002.3.29(はれ)
『いつものお客さま』
「ああ、今日は、なんか非常に新鮮だね。」
「やっぱり?」
「うん、そっちも?」
キャディさんたちはハーフ上がってくるとご飯を食べながら今日のお客さまのことを思い出した。
「もう、わたしのお客さんさぁ、12番のロングでね、フロントから「555ヤード」って書いて
あるじゃん。」
キャディさんは笑いを堪えきれずに続けた。
「ごひゃく、ごじゅう、ごー!!うわ〜、555もあんの!本当に!ひえーっ!打って打って打ち
まくらないとグリーンまで辿りつかないんじゃないの!ねぇ、キャディさんっ?・・・・だって。」
「あははは、そりゃ新鮮だね。」
「参っちゃうよ。おまけに誰か打つときに必ず「あっ、右OBだよ!」って横やり入れるのね。」
「完全に普通のお客さんの典型だね。」
「でしょー。もう、昨日までのあれはなんだったの?って感じ。でもね、わたし的には今日のお客さ
んが好きかも。」
「なんで?プロのほうが楽勝じゃん?なーんにもしなくていいんだよ?」
「うん、でもね、あれはあれで窮屈じゃない?距離とか、ほら、云いたくなんない?そこは打ち下ろ
しがあるから絶対短めに打ってくださいね、とか。」
「そーお?」
「うん、なんかさぁ、キャディさんって感じじゃない?ラインだって聞いてくれるしさぁ。なんか仕
事してる!って気になるじゃない?」
そう思わずにはいられないキャディさんだった。)^o^(
2002.3.30(はれ)
『100切りゴルフ学院』
キャディさんはハーフ終わってお昼ごはんを目の前にしてため息を付いた。
「もしかして、“100切りゴルフ学院”ですか?」
「そう。」
「どうですか?100切れそうですか?」
「駄目」
「でも、今日が卒業式なんじゃないですか?」
「そうなんだけどね、あれって100切れなかったらどうすんの?」
「留年ですかねぇ。(笑)」
2002.3.31(はれ)
『何歳まで生きる?』
「こんなこと聞くの失礼かもしれないけど、もう70じゃない。」
お客さまが同伴者に云った。
「正直なところ、自分でいくつまで生きるつもりでいるの?」
「あんたも失礼なこと聞くね。」
「だから失礼だけど、って云ったでしょ。」
キャディさんは他のお客さまたちとくすくす笑いながらその話の成り行きを見守っていた。
「そうねぇ、85までももたないだろうなぁ。」
お客さまは急に遠くを見るような目をしてしみじみと答えた。
すると聞いたほうが「うん、そうよねぇ。」と相づちを打つ。
うん、そうよねぇだって!
キャディさんは声を立てずに他のお客さまたちと大笑いした。
普通、そこで頷いちゃいけないでしょう!?
「しかし、70過ぎてもよく飛びますね。あなたが70過ぎてもこんなに飛ぶってことは知
らない奴は知らないだろうけど、知ってる奴もあんまり、いないか。」
なんなのよ、それ・・・(^_^;)
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