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2000.12.1(はれ)
『スタンス』
キャディさんは気づいていた。お客様が右を向いている、ということを。
前のホールで右にO.B.を3連発したのにもかかわらず、左狙いと説明したばかりのティショットも右を向いて
打とうとしている。
「右向いてますよー」
たまりかねた同伴者がアドレスに入ったお客様に声をかけた。
「え?ほんとですか?」とクラブを下ろしてもう一度ボールの後ろに立って方向を確かめ、そしてスタンスを
取り直す。
「恐れ入りまーす、暫定球お願いしまーす!」
打ったボールは左にO.B.した。
「・・・。」
左を向けとアドバイスした同伴者の顔色が心なしか蒼くなったような気がした。
2000.12.2(はれ)
『逆そう』
14番ホールは右も左もO.B.がない。
早朝、鹿児島から5時間かけてやってきたというお客様はティショットを左にひっかけてしまった。
O.B.ではない。
ただ、高低差が30ヤードほどある隣のホールに下りて、上に打ち返せばいいだけだ。
云うのは簡単だが、やってみるとなかなか簡単なものではないらしい。
キャディさんはすばやく4番、5番、7、9、Pwをキャディバックから抜くとお客様の後を追いかけて斜面
を駆け下りた。気が動転しているのかこういう場合は手ぶらでボールのところに走っていく人が多い。
キャディさんが4番、5番を持って行ったのは高低差はあるものの、距離がたっぷりあったのでこれでも上が
るかもしれない、と判断したからだ。持っていったクラブを差し出すとお客様はすぐに4番アイアンを取った。
「ああ、やっぱりね。」とキャディさんは思いながら持ってこない方が良かったかな、と心の中で呟いた。
理由は簡単、統計的に(>キャディさんによる経験上の統計)ここで4番、5番を選ぶ人はまず、1回で上が
ることはないからだ。4番、5番を取りたくても7番か9番あたりを取ってくれた人はそんなに大叩きをする
ことはない。ホールアウトしたときに「えー?落っこちてたのにパーなの?」とか「よくボギーで済んだねー」
などと同伴者に云われるものだ。
30ヤードを駆け下りたキャディさんは今度はその30ヤードをぜいぜい云いながら登り始める。
お客様に方向を教えなくてはいけない。
12月だというのになんと暑い日だろうか!キャディさんは首に巻いたスカーフを外し、風通しを良くした。
ついでに手袋も取り、制服の袖口のボタンを外すと肘まで袖をまくりあげた。
「こっちでーす。」手を挙げて大声で方向を示すとすぐにその場を離れる。
このまま立っていてはボールが当たる、ということと、ルール上、そのまま目印としてその場に立っていては
いけないのだ。
4番アイアンで打ったボールはやはり1度では上がってこなかった。2回、3回と打つごとにグリーンには近
くなっているが一向に30ヤード下から上に上がらない。そしてキャディさんは気が付いた。
「逆そうしてる・・・。」
そう、30ヤード下の隣のホールをそのホールのティグランドに向かって打って進んでいるのだ。
最後にSwを渡してお客様とキャディさんがようやくグリーンにたどり着いたときに「お疲れさま」と同伴者の
3人から声をかけられた。キャディさんはずっとお客様に付いて30ヤードを登ったり下ったりしていたのだ。
その息の上がった状態というのは半端なものではない。それでもピンを抜いてラインをアドバイスしてボール
を拭いて、やることはたくさんある。こんなに暑い日に靴下を2枚も履いてくるんじゃなかったなぁ、とキャ
ディさんは思った。
2000.12.3(はれ)
『目土袋』
キャディさんはディボットを見つけては土を入れて、その上から足で踏みつける。ディボットの周りの芝の
高さに合わせて均等に土を入れなくては芝が生えてきたときに絨毯のような綺麗なフェアウェイにならずに
凸凹なフェアウェイになってしまう。
目土用の土は全てのホールのティグランドに用意されているので土がなくなる度に補充することが出来る。
ショートホールにやってきた。キャディさんはまず、ティグランドに落ちている折れたティペッグや目に付
いたゴミを拾う。そのすきに、事は起きた。
「キャディさん、よく仕事するから代わりに土入れておいたよ!」
「あら、ありがとうございま・・・す。」
って、おい、おい!なんだこりゃ?
キャディさんが振り返るとてんこ盛りにされた土がぎっしりと目土袋に積まれている。見ただけで重そうな
その目土袋は2倍にふくれあがっていた。
「ところであの、スコップはどこに行ったんでしょうか?」
スコップが見あたらない。
「ああ、中に入ってるよ。」
・・・スコップごと埋めやがったな、とキャディさんは苦笑した。
2000.12.6(はれ)
『パット』
「ああ、いいよキャディさん拭かなくて。」
というのはグリーンでのこと。ボールを拭こうと腰を下ろしたときにお客様がそう云った。
「いえ、ちょっと拭きましょう。」
まだグリーンにオンしていないプレーヤーもいることだし慌てて打つこともない。
「ゆっくりでいいですから、考えてから打ってください。」
「・・・。」お客様が一瞬硬直した。
「俺、考えてないように見える?」
見える、と即答したいところだがキャディさんは笑って誤魔化した。
「よーし、先に打ってようかな、こんな長いの入りそうもないし。」
相変わらずグリーンを行ったり来たりしている同伴者を待ちきれずにお客様は先に打つことにしたらしい。
キャディさんの予想に反して(笑)ボールはライン通りに転がり始めた。
キャディさんはグリーンに乗っていないプレーヤーについていたためにグリーン上のピンを持つ事が出来な
かったので代わりに走るボールに向かってこう叫んだ。
「入るなー!」
「え?なんで入るなって云うの?キャディさん、冗談でしょう?」
「何云ってるんですか、入ってたら2ペナですよ。」
2000.12.7(はれ)
『精密検査』
ロングホールのセカンドからお客様が壊れ始めた。前に進まなくなり、頭ばかり叩きはじめ、しまいにはO.B.
を続けて3発打ち、見てる方も気の毒なほどの様である。それでもピンまでまだ150ヤード残っており、同
伴者達は「いいぞー、もっと叩けー」「ボールならいくらでもあるからなー」「今日はスクラッチだったなー」
と云いたい放題だ。
「俺、どっか悪いんだろうけど、わかんないよ」
お客様はグリーンに着くと頭をひねって自分のスウィングについて考えはじめた。
「悪いんだったら精密検査でも受けて来いよ!(笑)」
なんとまあ、悪友とはこのことだろう。
キャディさんはびっくりして目を見開いた後「それも一理あるかもね。」と思った。
2000.12.8(はれ)
『お寿司やさん』
「この人寿司やなんですよ」
お客様が隣に座っている友人を同伴者に紹介した。
「あ、そうですか。それでどちらで?」
「それが市内なんですがね、市内で一番まずい寿司やです。」
と答えたもんだからカートを運転していたキャディさんは笑いが止まらなくなった。
紹介されたお寿司やさんが身を小さくしていたかと思うと
「うちに来られるときは是非、胃薬と正露丸を持って来て下さい。」と云うので益々おかしくなった。
さらに続けて「うちで出すものはだいたい煮るか焼くかしないと食べれませんから。」
・・・それは一体どんな寿司やなん?刺身のない寿司やなんて聞いたことないぞ。
しかし、最後に紹介したお客様からちゃんとフォローがあった。
「本当にまずい寿司やならこんなにしょっちゅうゴルフなんて出来ませんよ。」
うんうん。
キャディさんも一度お邪魔したことがあるがとても美味しいお寿司やさんだ。.
とくに刺身が旨い!(笑)
2000.12.9(はれ)
『腕』
「キャディさん、ちょっと手伝ってくんない?」
8番ホールにくるとお客様は着ていた服の袖を取り外しはじめた。
12月だというのに暖かくて半袖のお客様も多い。
風よけに着ていたカッパの袖はジッパーで取り外し出来るようになっていた。
「この袖が悪いんだと思うんだ。」
「はあ。」
お客様は今のところ全てのホールでティショットがチョロだった。
そして袖を外したとたん「ナイスショットーっ!」いい球が打てるじゃないか。
「ね、袖が悪かったんだよ」というお客様に「腕変えたんですね。」とキャディさんが云った。
2000.12.10(くもりのちあめ)
『簡単』
「あら〜、ここ埋めたの?広くなったねー。」
「はい。」
もう2年くらい前になるがロングホールのティグランドの前を埋め立ててしまった。
ティグランドの目の前なのだからそんなところに打つ人の気が知れない、と云いたいところだが見た目も大切
ということで(笑)気持ち的にプレーヤーにしてみれば違うのだろう。
ついでに左の谷も埋めてフェアウェイと同じ高さになった。
これで左にひっかけてもO.B.じゃなくなった。
「わぁ〜、こんなに簡単にしてどーすんのよキャディさん、もう、簡単すぎるよ!」
そうは云っても一応、このロングはハンディキャップ「1」ということになっている。
「そうですね〜、簡単ですからバーディくらい簡単ですよねー。」
キャディさんがお客様に合わせるとこんな言葉が出てくることになる。(笑)
「・・・・。」
結果はボギーでした。
2000.12.12(はれ)
『おしり』
「キャディさん、2人はおいてカートでちょっと前まで行こうよ!」
早く自分のボールのところに行きたいのか先に打ってしまったお客様がキャディさんをせかした。キャディさ
んも少し前に行くくらいならカート道はホールの左端だし、フェアウェイの2人は右に打たなくてはならない
から大丈夫だろうと思ってカート70ヤードほど前に移動させた。
グリーンが空いて一人目が打ち始めたとき、キャディさんはすでにカートから降りて目土をしていた。
一緒に来たお客様もカートから降りて2人の打つ様子を見ているところだった。
同伴者がクラブを振った、その次の瞬間、キャディさんは打たれたボールがまっすぐ自分に向かって飛んで来
ていることに気づいた。
「わぁーっっ!」
キャディさんは目土袋を肩にかけたまま慌ててボールをよけた。球が左にひっかかったのだ。
そしてそのままボールの進行方向に振り返った。
「あいたーっ!」
振り返ったキャディさんが見た光景はお客様がボールをよけ損ねて体をよじったところでなんとおしりにボー
ルが直撃する、というものだった。
あちゃ〜、当たっちゃったぁ。とキャディさんが片目をつむってまずい顔をしていると今度はボールを打った
方が「専務ーっ!」と叫ぶではないか。
もっとまずかったりして・・・。(?_?;
キャディさんが専務と呼ばれたお客様に駆け寄って大丈夫ですか?と伺うと「大丈夫、大丈夫、ほら、お尻の
ポケットにスコアカードを入れてたから助かった。」とにっこり。
そして走ってきた同伴者がこう云った。
「キャディさん、大丈夫!?キャディさんには当たってないね?すみません、専務。いやー、当たったのが専
務で良かったですよ。キャディさんに当たってたら2ペナ付くところでした。」
って、おい!そりゃそうだけど。(笑)
2000.12.13(はれ)
『Pw』
キャディさんがカートにキャディバックを積み終えてからクラブ確認を始めると、調度お客様がやってきた。
「おはようございます。あの、Pwが入ってないようですが宜しいですか?」
「なんで?」
「・・・。」
お客様は女性で背が高くて綺麗な方だった。
「なんで入ってないの?」
うっ。
とっても気が強そうな女性でキャディさんは「なんで?」って云われてもはじめから入ってないんだからこっ
ちが聞きたいくらいだよ、と思ったのだが「なんででしょう、ねぇ。」と首を傾げた。
「じゃあ、どうやってアプローチするの?わたしにアプローチするなって云うの?」
「えっ?!」
勘弁してくれよー、なんでわたしがそんなこと云われなくちゃいけないのよー、自分がPwを入れて来てないか
らでしょうが!PwがなくてもSwでも8番でも7番でも転がして寄せればいいじゃないのよー。
「なんなら貸しクラブがありますけどぉ。」
2000.12.14(はれ)
『ティショット』
なんだかとってもイヤな予感というものはよく当たるものだ。
スタートホールでお客様の1人が構えたとき、なんかよくないことが起こるような気がした。
ティアップして、クラブを振る、と、
「あたっ!」
・・・。
なんで自分に当たるのよ〜。
どうやったらティショットしたボールが自分に当たるのよ〜。
勘弁してよ〜
まだティショットしかしてないのに次に打ったら4打目だよ〜
ここはミドルホールよ〜、4打で上がるとこなのよ〜
しかもまだティグランドから脱出していないのよ〜
2000.12.16(はれ)
『名物キャディさん』
「ナイスショーッ!」
とひときわ大きな声を放つのは名物キャディのMちゃんだ。
「ああーっ、はい、O.B.です。」
ガクッ・・・これもよくあることで打った球は最後までどこに飛んで行くかわからない。
「えーっ、キャディさん、今のほんとにO.B.?」
お客様に問いに彼女は大きな高いトーンの声でこう云った。
「信じられないでしょ?」
「うん、信じられん。」
「事実です。」
(普通、云うか?お客さんにそんなこと!)
茶店で追いついてMちゃんのカートの後ろにつけたわたしは大笑いしてしまった。
Mちゃんはお客様の笑いと、さらにわたしの笑い声を聞くとどんどん調子が上がってきた。
2人目のお客様のティショットは風もないのに低い弾道だった。
「ナイスです!地を這って行ってます!」
地を這って!確かにそうかもしれないけどMちゃん、そんな大きな声で!(笑)
次のお客様は笑い過ぎて「ち、力が抜けていく・・・ああ、たまらんなぁ、このキャディさん」
するとMちゃんが営業用の高いトーンの声で
「お客様、わたしのペースに巻き込まれないでください。」とき来たもんだ。
「もう、巻き込まれています。」
とお客様は彼女のかん高い声をまねして云った。
2000.12.17(くもりときどきあめ)
『ちゃんぽん』
コンペの2組目だった。1組目はとっくにスタートしたというのに2組目のお客様が1人もスタートホール
にやってこない。いったいどうしたというのだろう?
キャディさんはスタート室に電話すると放送して呼び出してもらうことにした。
しかし、それでもやってこないので2回目の呼び出しをかける。
「わぁーっ、ごめんなさい!キャディさん!」
しばらくするとお客様が4人走ってティグランドにやってきた。
「ごめん!まだ10分あるからレストランでちゃんぽん頼んでたんだけど、やっときたのに呼び出すから急い
で来たんだけど、ちゃんぽん、2口しか食べれなかったよ!」
そんなことしるか!
「スタート時間を確認して頼んでくださいよ、なんでスタート時間の10分前にちゃんぽん頼むんですか。」
「1000円するのに2口しか食べてないなんて200円分しか食べてないってことじゃない?」
しるかっつうの!
2000.12.19(くもり)
『蟻(アリ)』
「前の組は忙しそうですねー。」
同じコンペだというのに、キャディさんはバタバタと走りまわるフェアウェイのプレーヤーたちを見て
自分のお客様を振り返った。
4人とも安定したプレーでキャディさんにしてみれば仕事的に楽をさせて頂いている。
「なんかアリみたいだよね。」
お客様の1人が云った。
「アリ・・・ですか?」
「うん、ほらあそこが巣で・・・」
お客様は前の組のカートを指さした。
「ほら、ほら、エサを運んでるみたいじゃない?」
「・・・巣、ですか。」
なるほど、ボールを打つとクラブを持って次々にカートに走って戻ってきてはまたいっぺんに走ってい
く姿。たしかに云われてみれば・・・
2000.12.20(くもり)
『200ヤード』
最終ホールのミドルホールは左ドックレック。
レギュラー・ティから418ヤードあるので距離はある。
「狙いはフェアウェイのセンターなんですが、左のバンカーは200ヤードあれば越えますから。」
「200かぁ。」
「ええ、200で越えますよ。」
キャディさんはお客様の不安な顔を吹き飛ばすかのようにいとも簡単にそうに云ってのける。
「今の俺に越えるかな。」
「・・・。」
次の瞬間、その場にいた全員が顔を見合わせて「ぷっ!」と吹き出した。
「今の俺に」「越えるかな」・・・なんて重みのある言葉だろう!?
2000.12.22(はれ)
『記念撮影』
「キャディさん、写真撮ってくださらない?こんなことでもない限り2人で写真なんて撮ることないじ
ゃない?」
スタートホールで奥様がカメラを差し出した。
「いいよ、写真なんて。今さら撮ることもないじゃない。」
ご主人はというと、恥ずかしがっていやがってる割には
「いいのよ、はい、キャディさんお願い。そうね〜、この景色が素敵ね。キャディさん、こっちから撮
ってくださる?」
「はあ。」
いつの間にか奥様の隣に立つとドライバーを格好良く自分の前に出すとVサインまでやっている。
ついでに「キャディさん、念のためにもう一枚お願い。」と云われた。
そのあとの18ホールも2人の息はぴったりで、歳をとってもこんな夫婦っていいなぁとキャディさん
は思うのだった。
2000.12.23(はれのちくもりときどきあめあらし)
『歩測』
グリーンエッジまで150ヤードの目印の植木がある。
お客様はちょうどその目印の地点から1歩、2歩、とリズミカルに歩き出した。
キャディさんはそれを見てちょっと嬉しくなった。
お客様が歩いている間に他のプレーヤーにクラブを渡したり距離を云ったりキャディさんは4人のプレ
ーヤーを相手にしているだけにいつでもやらなければならないことは沢山あるのだ。
今日のこのホールのピンはエッジから27ヤード奥に切ってある。
つまりボールが150ヤードの目印の地点にあるのなら27ヤード足してピンまでは177ヤードとい
ことになるのだが、お客様のボールは150ヤードの目印よりもいくらか前にあったので計算をすれば
「150ヤード」-「150ヤードから少し前」+「今日のピンは27ヤード」=「ピンまでの距離」
ということになる。
お客様は1人ずつ次から次に「あと何ヤード?」とキャディさんに聞いてくるがキャディさんはいつも
こういう計算をもとに距離を出している。
さらに、少しでも正確な距離を知るためには「歩測」は重要だし、ゴルフが上手な人ほど自分で歩いて
距離を測り、自分で距離を計算をするものだ。
キャディさんはお客様が自分のボールのところまで歩き付くと「何ヤードでした?」と聞いた。
1ヤード=90センチを基準に1歩、1ヤードで歩いて行くので10歩で10ヤード、15歩で15ヤ
ードという風に計算をする。(必ずしも1歩=1ヤードで歩くことは出来ないけれどそれなりの目安に
はなる)
「え?何?」
お客様はキャディさんの方を振り向くと「あとどれくらいかなぁ?」と自分のボールと遠くのピンを見
比べた。
「えっ?今、歩測してませんでした?」キャディさんはすぐに目測で計算をすませると、お客様が使う
であろうクラブを2,3本選ぶと走って行く。
「そんな〜!そんな本格的なことするわけないじゃない!」クラブを受け取りながらお客様はそう云う
が、「せっかく歩いてボールのところまで行くんですから歩測したほうがいいですよ。わたしの云う距
離よりも正確ですから。」とキャディさんは云った。
2000.12.24(はれ)
『エイジシュート』
キャディさんは前から気になっている「言葉」があった。
それは「エイジ」というからには「歳」が関係するらしい、ということはなんとなくわかる。
それも、随分と歳を取ってないと駄目らしいのだ。
ゴルファーの3つの夢、「ホールインワン」「クラブチャンピオン」「エイジシュート」・・・
と云われるからにはそうとう難しいことのようだ。
一体、エイジシュートって何?
今日のお客様はまさに「エイジシュート」の方だったのでキャディさんはラウンド中に聞いてみ
ようと思った。おかしな話だがキャディさんは「エイジシュート」の意味はわかないのにその方
が「エイジシュート」だということは知っていたのだ。それならば、本人に聞くのが一番いいじ
ゃないか!というわけで・・・
出だしからパー、パー、パーと来てさすがに上手いな〜と感激しながらキャディさんはさっそく
お客様に向かって「あのー、大変失礼なんですが、「エイジシュート」って・・・」
「うん、どうした?」キャディさんは思いきって聞いた。
「何ですか?」
「・・・。」
お客様はにっこり笑うとうん、うん、と頷いてからあっさりと答えを教えてくれた。
「自分の歳の数でまわること。」
「えっ?・・・自分の歳の数で、まわること、ですか。」
なーんだ、そんなこと!
しかし、キャディさんはもう一度繰り返して云われた言葉の意味を整理してみた。
自分の歳っていうことは、ゴルフのスコアは「パー・72」だから〜自分の歳が72歳だと72
でまわらくてはならない。・・・72なんて、そんなプロじゃあるまいし、しょっちゅうそんな
スコアでまわれる人なんかいるわけない。
上手な人だと72で上がって来れる人もいるけど、ちょっと、待てよ、歳はまだぜいぜい40歳
〜50歳くらいで・・・72歳なんてまだまだ先のこと!
歳を取れば取るほど飛距離も落ちるし、第一そんな歳になってもゴルフが出来る健康な身体かど
うかわからないし、そんなこと歳を取ってもよっぽど上手じゃないと出来ないことじゃない?
誰でも出来ることとわけが違うわ!だいたいホールインワンなんてまぐれで入る人もいるけどこ
ればっかりはまぐれじゃ出来そうにないじゃないの。
「あのときはすごかったよ。1日目が74でエイジシュートだったんだけど、2日目も16番ま
で1オーバー出来てたから2日目も74で来るんじゃないかってみんなで応援しながら大騒ぎし
てたんだよ。」
キャディさんが頭の中で考え込んでいると同伴者のお客様が「あのとき」のことを思い出しなが
ら話してくれた。
「いやー、しかしね、ゴルフばかりは何が起こるかわからないでしょ。結局そのあと叩いて75
にしてしまったんだから。」
あのとき・・・というのは2年前の九州シニアグランドチャンピオン大会でのことだ。
74歳のあのとき、今日のお客様が九州チャンピオンになったときの話。
(注意)キャディにくせにそんなことも知らないで!と思われた方・・・すみません、でも、ご
本人に直接聞いた勇気に免じて許してください。(__)
2000.12.26(はれ)
◇今日のお客様世紀末スペシャル・キャディさん云いたい放題1日目◇
「へえ、すごいコンペだねー。この時期にこんな大勢でコンペできるなんて、いい会社なんだうねぇ。」
「わぁ、ほんとですねー。すごい人数ですね。わたしたちの後ろから来るんですよ、あのコンペ。」
キャディさんはそう云うと、さっさと自分のお客様とスタートして行ってしまった。
ハーフ終わって食事をしていると遅れること30分、やっと後ろの組のキャディさんが帰ってきた。
「どうしたの?遅くない?」
ハーフ2時間30分っていうのはちょっと、考えものだ。
「駄目!」
「え?」
何が駄目なのかよくわからない。
「駄目よ、あのコンペ、ゴルフ場に来ちゃ駄目!」
「はあ?・・・はっはっはっは、やられた?」
「やられた。」
「どんな風に?」
「まず、クラブに騙されたのよ。ツアーステージとかハイブリットとか、いいクラブばっかりだったから
まあ、新しく買い替えたんですか?新品ですね、つったら「ツアーステージって何?」って、自分で買っ
ておきながらよくわかってないのよ!」
「あら〜。」
そこへ次々にコンペに付いたキャディさんたちが帰って来る。
「なんなのよー、このコンペは!なんでニアピンが4本もあんの?」
「4人までいいんだって。」
「ニアピン4本?何それ?旗が4個もあるってこと?」
「そーなのよ、普通は一番近い人が1人だけでしょ。そうじゃなくて近い人から4人まで旗をさせるんだ
って。」
「へえ、考えてるねー。それだけ賞品があるんでしょうね。で、その旗4本グリーンにささってんの?」
「入らない。」
「そうよ、4本あってもまだ1本も乗ってないのよ、後ろが乗せてくるかもしれないけど!」
ぶっっ。お茶を飲んでて吹き出してしまった。
「そりゃまた、すごいコンペに付いたもんだねー。」
OUTとINからそれぞれ10組の総勢20組のコンペだ。
「ただいまーっ!ちょっと、わたしのお客さん、ハーフ106よ!後半行きたくないよーっ」
そこにまた次のキャディさんが帰ってきた。
「106?マジで?」
「大マジよ。このお客さんたちさ、すっごい金持ちばっかりなのよ、クラブはいいし、ボールも全部ニュー
ボールで、いくら打ってもニューボールを箱から出すの!」
そしてそこにまるで新聞の号外でも配るかのごとく「大変よーっ!このコンペ、明日も来るんだってーっ!」
とニュース速報を叫びながら次のキャディさんが走って帰ってきた。
「えっ!?」
全員、それを聞いて顔を見合わせた。
「明日?・・・明日も来んの?」
「うん、だってわたしのお客さんが云ったんだもん、明日も来るからねーって。」
「嘘・・・」
「今日は嬉野温泉に泊まって忘年会なんだって、んで明日もうちに来るんだって。」
「げーっ、マジかよー」
「106叩いたお客さんさ、ゴルフすんの初めてでさ、グリーンでマークを・・・」
「ボールの前におくんじゃないの?」
「そんなのまだ可愛いよ、マークが浮いててライン上だとまずいから上から押さえててくださいって云ったら
足で踏んでんの!」
「ひえー!」
キャディさんたちはゲラゲラ笑ったが「しかも人のマークよ、足で踏んで押さえてるからわたしおかしくって、
スパイクレスだったからまだ良かったけど、スパイクで踏んでたら怒られるよね、あれ。」
「2千円もらってもねー。」
「ほんと、ほんと。」
「え?何?そのコンペ2千円もらったの?」
「そうよ、付いたキャディ全員に20世紀最後のコンペだからって2千円ずつもらったのよ。」
「いいなー!」
「・・・足りないって。」
「え?」
「2千円じゃ、足りないって!(笑)」
キャディさんたちは永遠と喋り続けていた。
2000.12.27(はれ)
◇今日のお客様世紀末スペシャル・キャディさん云いたい放題2日目◇
「今日の目標は110でまわること。」
キャディさんがカートを出して準備をしているとお客様たちの話し声が聞こえてきた。
「110ですか!そしたら優勝じゃないですか、ハンディ45あるんですから。」
・・・今の何?(笑)
目標が110で、ハンディが45?
「いいや、社長は55あるんだぞ。」
ハンディが55・・・・。
これって、もしかして。
調度通りかかった別のキャディさんに「ねえ、もしかして昨日のコンペ?」と聞いてみた。
「そうよ、また2千円もらったわよ。」
「わぁ、今日も?いいな。」
「・・・今日も2千円じゃ足りないわよ。」
「・・・(笑)!」
2000.12.28(はれ)
『離婚』
「キャディさん、大村にお姉さんがいない?」
「大村にですか?いいえ。」
突然お客様に聞かれたのでキャディさんはそう答えた。すると、
「この人ね、誰にでもそういうこと云うからね。」
同伴者の方が笑いながら教えてくれた。
お客様は「ちっ」と横目で同伴者を制すと「ほんとは子供いるんでしょ?子供何人?」
と態度が一変。
「子供ですかー?いないですよ。独身ですもん。」
「結婚してないのか?」
「ええ、離婚しましたから。」
「・・・(゜_゜;)」
勝った。(^ヘ^)v
(注意)キャディさんは結婚したことも離婚したこともありません。
2000.12.29(はれ)
『新世紀』
前半の最終ホールにやってきたところでお客様はスコアを数えはじめた。
「うわっ、54!もう歳こえてる。」
キャディさんはあんまりおかしくて「何のトシですか?」と尋ねた。
すると同伴者たちは「トシこえてるって、新世紀ですか。」とか
「もう、自分だけ新世紀に入ったんですか!」とか
「ぼくもおいていかないでください!」とか、好きなことばっかり云っている。
「・・・うるさいなー!自分の歳をこえたって云ってんの!」
2000.12.30(くもり)
『餅』
4人のお客様はそれぞれの20世紀最後のゴルフを楽しんでいるようだ。
誰かがミスをすると誰かがにっこり。
「うーん、これはもしかしたらもしかするぞ!」
お客様はスコアを書き込みながらこう云った。
「うちはお金がないから家で餅をつこうと思ってたけど、もしかすると餅を買いに行けるかもしれんぞ!」
「・・・。」
にぎりで勝ったお金で餅を買いに行く・・・。
まさかそれで生活してるわけじゃあるまいな・・・/<_o_>\
20世紀最後のお客様、でした。
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