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2000.10.1(晴れ)
『気持ち』
倶楽部選手権の決勝36ホールの朝は昨日までの雨が上がり最近の朝晩の冷え込み
もなく暑い一日となった。
そして、もっと熱い人たちは予選通過で決勝に残ったプレーヤー達だ。
しかし一概にそういうわけでもないらしい。
予選をトップで通過したプレーヤーのうち1人が18ホール終了したところで小休
憩を取っていた。ちょうどそこにキャディさんが通りかかった。
「調子はどうですか?」
「駄目。」
即答だった。
「駄目って・・・みんな応援してますよ?」
「気持ちが、・・・入っていかないんだ。」
「気持ち?」
プレーヤーはいつもと違ってまるでさえない顔をしていた。
「応援してくれてるのもわかってるんだけど、それよりも自分の気持ちが入らない。
やるぞっ!って気にならないんだ。弱いんだろうな〜」
「パターはどうですか?」
「駄目」そう言って首を左右に振った。
「パターが駄目とかショットがどうとかと言う前に、気持ちの問題なんだ。」
肩をすくめて苦笑いした。
「気持ち、ですか〜。じゃあ、来年は根性から叩き直してこないといけませんね。」
「まったくだね。」
2000.10.6(くもり)
『帽子』
「帽子忘れたのか?駄目だよ〜、ちゃんと帽子かぶらなきゃ。」
同伴者に向かってお客様はそう言った。
そう言ったついでにあるものをほおり投げた。
「・・・。」
女性用のサンバイザーだった。
「・・・これすんの?」
キャディさんはくすくすくすっと笑いをこらえてバイザーを渡されたお客様がどうする
のか眺めていた。
九州のゴルフ場はプレー中は必ず帽子をかぶることを強制しているところが多いのでお
客様はゴルフ場では帽子をかぶることを当然と思っている方が多い。
帽子を忘れた場合はフロントで貸し帽子を借りたり、ショップで購入することを勧める
ところもあるほどだ。近辺のゴルフ場を見回しても帽子をかぶらなくても何も言われな
いのはうちのゴルフ場くらいのものだろう。
そんな状況なのでお客様は素直に女性用のバイザーを額にあててプレーを始めた、ので
キャディさんは面白い成り行きを見ることにして”うちでは帽子は強制じゃないですよ。
”ということを言わないことにした。
すると、しばらくしてバイザーをしたお客様が呻きはじめたのだ。
「あ、・・・頭が痛い。」
こめかみを指で押さえてしゃがみこんだ。
「孫悟空みたいな奴だな。」
「・・・頭をしめつけられて痛いっすよー」
キャディさんは吹き出しながらお客様にそろそろ本当のことを言うことにした。
「あの〜、帽子なしでもO.K.ですけどね。」
「・・・早く言ってよー」
2000.10.7(くもり)
『端っこ』
キャディさんはキャディバックを4つカートに積み終えるとクラブの確認を始めた。
するとお客様が1人やって来た。
「あのさ、これ一番端に積んでくれる?」
「・・・。」
むっ!
キャディさんはほんの1秒だけ顔が引きつったが「はい、いいですよ〜」とすぐにキ
ャディバックを積み直した。軽量タイプのキャディバックなら面倒くさいなーと思い
ながらもまあ、いっかーと思ったけれどごつくて見ただけで重そうなキャディバック
をまた積み替えるなんて、(端っこがいいなら積む前に言ってくれよー、だいたい端
っこに積んだからってスコアが良くなるわけじゃあるまいし。なんで端っこがいいの
よ、どこでもいいでしょ!)
と、大半のキャディさんは思っている筈だ。
そうやってキャディさんがキャディバックを積み替えていると「ボール拭きたいんだ
けどタオルない?」と練習グリーンで転がしてきたボールを3つ、キャディさんの目
の前に差し出した。
「・・・。ああ、タオルはカートのかごに入ってますから〜」
今キャディバック積み直しているところでしょ!見てわかんないのかい!
「はい、キャディさん。」
「・・・。」
だから、まだ積んでる途中って・・・・。
キャディバックをかかえた状態にボールを拭いたタオルを投げてよこした。
綺麗にたたんでかごに入れておいた数枚のタオルもバラバラにされてキャディさんの
道具もめちゃくちゃにされていた。
「スタート何時だっけ?あ、そう。どっちから?OUT?OUTどっち?もう、前いない
んでしょ、行こうよ早く。」
「・・・。」
キャディバックを端っこに積んで、と言ってくるお客様は要注意だ。
2000.10.8(くもりときどきあめ)
『表彰』
「ねえ、キャディさんまだいるかな?太ってて子供が4人いるキャディさんいたでしょ。」
「ああ、いますね。」
キャディさんは頭の中でどっちのことかな?と考えた。
「2人いるんですけど、どっちでしょう?」
「太ってる方。」
お客様はにっこり笑顔で、本人が聞いたらセーフのボールもO.B.杭の外に蹴り飛ばしそうなほど
速攻で答えた。
「ええ、2人とも太ってますけど。」
「子供4人いるって言ってたけど。」
「ええ、太ってて子供が4人いるのが2人いるんですよ。」
そこでキャディさんは眼鏡をかけているかかけてないかを問うと眼鏡はかけてない、ということ
が判明した。
「あのキャディさん、いいキャディさんだよねー。」
「ありがとうございます。」
「誉めてあげなきゃ駄目だよね。表彰しなきゃ。」
表彰とはまた、すごいべた誉めである。
「ありがとうございます。」
同僚のキャディさんが誉めてもらうと自分のことのように気分がよくなるものだ。
「現在の小子化問題に悩む社会に子供が4人というのは素晴らしい!誉めなきゃね。」
「ああ、そっち誉めてるんですか?(笑)」
キャディさんは声が裏返ってしまった。
2000.10.9(くもりときどきあめ)
『宅急便』
スタート時間の30分前にカートにキャディバックを3つ積み終えた。
「あと1個」
キャディさんは小さく呟いてからクラブ確認を始めた。
「ああ、キャディさん、もうクラブ積んじゃった?」
「ええ。」
まさかまた端っこがいいって言うお客さまじゃなかろうな?と思いながらキャディさんは首だけ
後ろに回した。
「キャディバックね、一つ送ってあるからちょっと待ってね!」
ああ、それで3つしかなかったんだ。
「はい、到着は?」
「2時だって。」
「ああ、そうですか。」
って、おい!
「2時ですか〜スタート8時35分なんですけどね。2時じゃ〜ちょっと間に合わないような気が
しますね〜」
っていうか絶対間に合うわけないじゃん!
「そうでしょ、僕もそう思ったんでさっき宅急便に電話してすぐに持って来てもらうようにしま
した。」
だったら最初からそう言わんかい!
2000.10.11(はれ)
『大阪人・2』
ショートホールに着いた。
カートをティグランド横に止めるとキャディさんはショートホールの距離の計算をした。
165ヤードの打ち下ろし、160弱でいいかな〜なんて思ってお客様の方を向き直った。
「いや〜、さっきのパット、よう入れはったなー。根性やな!」
「グリーンが早うて力入れたらえやいこっちゃ!どんどん転がっていきよる。」
「社長、このホール積み立て貯金貯まってまっせえ。」
「よっしゃーこんなもんカップにねじこんで見せるさかい、よう見ときー」
ずーっと喋っているのでキャディさんはなかなか距離を云うタイミングがつかめないでいた。
「あのー、距離ですけど〜」
「今のでまた差が開いたやろなー」
「ひゃく〜・・・」
「もうこれ以上負けられんから堪忍しとってやー」
「ひ、ひゃく〜・・・」
キャディさんは一生懸命距離を伝えようと努力していたがまるで誰も聞いちゃいない。
「おーっ、社長とわし、1点差やないかぁ!えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!」
「ひゃく〜」
キャディさんはまだ距離を言えないままでいた。
「キャディさんこれなんぼや?」
「160ヤードです!」
やっとオナーがキャディさんに聞いてくれた!
キャディさんはすかさず距離を伝えてほっとした。
「わ〜っっ!ナイスショットやないかー!」
同伴者が大声で喝采した。
きれいなショットでピンの横に付いた。
「で、キャディさんこれなんぼ?」
次に打つお客様がキャディさんの方を振り返った。
「・・・。」
だ〜か〜ら〜!もうっ!さっき言ったのにーっ!やっぱり聞いていないんだからー!
2000.10.12(くもりときどき小雨)
『SODYSSEY』
「この前のお客さんさー、”でるんだ”と”よるんだ”が両方入ってたんだぁ。」
「わたしのお客さんは”ピンそばくん”入ってました。」
キャディさんたちはお客さんのキャディバックに入っている面白い名前の付いたクラブの話を
しながら歩いていた。ちょうど通りかかったところで別のキャディさんがカートにクラブを積
み終えてクラブ確認をしていた。
「・・・そおでっせい?」
なんじゃこら?
ODEYSSEY(オデッセイ)じゃなくて、SODYSSEY(そぉでっせい)と書かれたパターを手にし
てさらに続けて書いてある文字を読んだ。
「そぉでっせい、いれよ、おもわな、はいりま、へん。よろしい、で。」
「何それ?」
「だって、書いてあるんだもん!」
「へんなパター」
「でもそのとおりよねー」
キャディさんたちはパターを見て大笑いした。
SODYSSEY
IREYO OMOWANA HAIRIMA HEN
YOROSSIE DE
2000.10.13(晴れ)
『オナー』
「おっ、もしかしてまたオナー?」
とお客様はスコアカードを開いて自分に問うた。
ショートホールはグリーンの左から谷風が吹き上がっていて見るからに風が強かった。
キャディさんが距離を伝えるとともに1クラブから2クラブ・・・番手を上げてくれとアドバイス
したほどだ。
「これからオナーがお手本を打つからよく見ておくように!」
調子に乗ってそう言って打ったショットはグリーンに届く前に風に流されて右のグラスバンカーに
落ちた。
「あ〜あ、普段しなれないことするもんだから。」
「しかも2回も続けてオナーなんてね。」
「罰が当たったんじゃない?」
「・・・。」
冷たい同伴者達だった。
2000.10.14(晴れ)
『半年』
「さびてないかなぁ。」
お客様はカートに積まれたクラブをのぞき込んだ。
キャディさんは「雨の日にされたんですか?」と前回のゴルフが雨の日だったのだろうと思ってアイ
アンにさびでも入っているんじゃないかと思って心配していると思っていた。
「うんん、半年寝かしといたから。」
「・・・。」
ああ、そーいうこと!
「大丈夫かな?くさってないかな?」
自分のクラブをさらにのぞき込んでからキャディバックのポケットを開けてグローブを取り出した。
「おっ!こんなとこから100円出てきた。なんかいいことあったりして!」
なんでグローブの中に100円が入ってるんだ?
キャディさんはスタートするときにカートのパター入れにお客様のパターを4本まとめて入れておく
のだが練習グリーンに行こうとしてお客様は深刻な顔をしてパターの前に立ち止まった。
「キャディさん、ぼくのパターはどれですか?」
ずるっ
「・・・覚えてないんですかーっ!?」
「半年に1回しかしないから忘れた。」
同伴者が笑いながらそれぞれのパターを持って行くと残ったパターを見て「ああ、これこれ!」と自
分のパターを手にして「残り物には福来たる」とかわけのわかない言葉を残して去っていった。
2000.10.15(晴れ)
『イメージ』
ショートホールのグリーンで1オンして1パット目を打ちすぎてオーバーしてしまった。
返しの3mのスライスラインは入ればパーなのだがお客様は「入る気がしない」と打つ前から弱気な
物腰だった。
「イメージして!入って喜んでるところ!ばんざいしてるとこ!」
相棒がはっぱをかけた。
お客様4人は2人ずつのペアに分かれて握っている。このパットが入ればこのペアの勝ちは決まりだ。
「イメージ、イメージ!入って喜んでるイメージ!」
キャディさんはお客様が入って喜んでるところをイメージしてみた。
が、おかしくてくすくす笑ってしまった。
「キャディさん、駄目よ笑っちゃ!大事なパットがかかってんだから。大切なのはイメージよ!」
「はい、すみません。」
勝負のかかったパターはカップの左ふちいっぱいに入って「ナイス・パー」!
2人は堅く手を取り合った。
なるほど、入って喜んでるイメージは大事なのだ。
2000.10.17(晴れ)
『馬券』
13番ホールのティグランドについたところでアドレスをして素振りを一回したお客様は同伴者に「今
のはどうですか?」と聞いた。
「うーん、向きが違うよね。このホール、右O.B.でしょ。そのまま打ったらO.B.に行くんじゃない?」
「ええっ、右向いてます?・・・もしかして今まで全部右に行ってたのは右向いてたからですか?社
長〜それを早く教えてくださいよ。」
「うーん、2ホール目で云おうかどうしようかと思ったんだけどね。」
「もう、13番ですよ!」
「だって、僕、君のこと買ってないし。」
「・・・!」
キャディさんとその他の同伴者は目を見合わせて笑い転げた。
「そりゃいいや!買ってないのに来られちゃ困るってわけですね。」
「それじゃあ、教えられませんな!」
コンペに馬券は付き物だ。
2000.10.18(くもり)
『佐賀弁VS関西弁』
関西からいらした女性のお客様は当然始終、関西弁だ。
「危のうおまっせっ!」
バンカーに入ると必ずこう云う。
キャディさんは初めて女性の口からそれを聞いたとき、テレビで中村玉緒さんが喋ってるような口調を生で
聞いてびっくりしてしまった。
「危なのうおまっせ!」なんて今まで聞いたことない。
グリーンではキャディさんがボールを拭いたりしてる間に「こっちに切れるんちゃう?」と同伴者にライン
を読んであげていたのだが、反対に切れてしまった。
「すらごとばっかい云うて!いっちょん切れんたいね。あんたの云うごと打つぎな〜んも切れんけんがもう
云わんでよか!」(嘘ばっかり云って!ちっとも切れなかった。貴女の云う通りに打ったら何にも切れなか
ったからもう、云わなくていい!)
「何を云うとるんかのぉ?早いからわからへん。」
女性は笑いながら首をかしげた。
「あんたの云うごと打ったぎんた、つーつらつーて走ってさるいたたいね。」(貴女の云う通りに打ったら、
球が転がって行ってしまった。)
「・・・つーつらつー?」
キャディさんは2人の会話が会話になっていないのを横で聞いていておかしかった。
この勝負、どっちの勝ちなんだろうか?
それにしても「つーつらつー」を標準語に当てはめるのは難しい。(笑)
2000.10.19(くもり)
『親切なお客様』
後ろの組は早くてすぐに追いついてくる。
コンペなのでお客様達はお互いに冷やかしあって楽しそうではある。
「うわっ、なっ、なにしてるんですかーっ!」
「触ってるだけだよ。」
「・・・触ってるだけって、うわ〜っ!」
キャディさんはびっくりして飛び退いた。
後ろの組のお客様が背後からキャディさんの肩から腕にかけてなでるように触っているのだ。
「わーっ、来ないでーっ!」
新たな攻撃にキャディさんは身をよじって逃げ出した。
「イヤーっ!」
お客様の顔がキャディさんの顔に近づいてくる。
来るなーっ!
と、目をつむった瞬間「右足の靴下が落っこちてるよ。」耳元でお客様が囁いた。
「・・・。(-。-;)」
ったく、もう!
2000.10.20(くもり)
『ドライバーVSアイアン』
よくあることだ。
距離のないミドル・ホールでドライバーではなくアイアンを持つ。
プレイヤーの心理というのは飛ばして中途半端な苦手なアプローチショットを残すよりは120
〜130ヤードくらいの距離をPwや9番で打とうというものらしい。2人のお客様は3番、4番
のアイアンをそれぞれ手にしていた。一番最後に茶店から出てきたお客様はそれを見て大声で
2人を罵倒した。
「ばっかじゃない?アイアンだって!」
「いいの!これで200飛ぶんだから300ヤード飛ぶわけじゃないし、いいじゃない人が何で打
とうが!」
というのがアイアンを持った2人の言い分だった。
そう言い切った手前、ティショットは狙いの左バンカーの横のフェアウェイにぴったりと付け
てきた。距離もちょうど200ヤードは出ていて残りが110ヤードくらいだろうかと、キャディ
さんは遠目に計算した。
ドライバーを持った最後の打者はティアップしてアドレスをすると「キャディさん、打っても
いいかな?」とわざとグリーンにいる前の組を心配する素振りを見せた。
「なーに云ってんだよっ!つまんないこと云ってないで早く打てよ!」同伴者は野次を飛ばし、
キャディさんは苦笑しながら「いいですよ〜」と答えた。
そして期待のティショットは勢いよく高々と左の山を越えていった。O.B.だ。
キャディさんに打ち直しを告げられると今度はチョロしてフェアウェイまでも届かないありさ
まだった。
「畜生!アイアンより飛んでない!」
この勝負、アイアンの勝ち。
2000.10.22(くもり)
『スコア』
「ああ、疲れた。」
キャディさんは18ホール終了するとキャディ控え室の自分の椅子に腰掛けた。
なんと云っても接客業なわけで、お客様にいいサービスをするためには気を遣ったり機嫌を
取ったり、神経を使うことはもちろん、走ったり山登りしたり大声出したりと肉体的な疲労
もかなりの割合で伴うことになるのがキャディの仕事だ。
「17番で2オン7パットよ。」
肩をすくめると隣に腰掛けている同僚に視線を投げかけた。
「あら、よく数えられたじゃないの。」
「わたしが数えといたの。」
それも仕事のうち、と云わんばかりにキャディさんは云い放った。
「わたしなんて1番のロングで5発O.B.よ。」
今度は反対に目をむくような話を聞かされることとなった。
「5発・・・って、あんまりじゃない?」
それだけでスコアは「10」だ。
「上がっていくつ?」
「15」
「あら、まあ。」
「O.B.なければパーなんだけどね。」
そりゃそうだ。
2000.10.25(くもり)
『しゃっくり』
西日本ではしゃっくりと云うが、関東では一般的に「ひゃっくり」と云う。
しゃっくりとひゃっくりの境目は三重県辺りだ。(キャディさん調べ)
大阪に入ると「しゃっくり圏内」に属するが三重県ではしゃっくりとひゃっくりが入り乱れての攻防を
繰り広げている。(?)長野県もしかり。しかし長野県ではひゃっくりの優勢が伝えられている。
角膜が痙攣を起こしていることを一般にしゃっくり(西日本)と云うのだが今日のお客様はしゃっくり
が止まらなくなってしまった。
それもなんと5番ホールから1時間にわたってまるで「オットセイ」のような「オウッ」「オウッ」と
いうしゃっくりが止まらないのだ。
「キャディさん、これどっちに切れ・・・オウッ!」
「大丈夫ですか?」
「うん、だいオウッ!・・・オウッ!参ったな〜オウッ!」
「北九州からここまで来るまで車の中で2時間、しゃっくりが止まらなかったんだけどスタートする前
に止まったのにね。」
同伴者が恐ろしいことを云った。
「に、2時間も止まらなかったんですか!?」
キャディさんはびっくりしたが茶店にさしかかったところでさきほどの同伴者が入り口に立ち止まって
こう云った。
「どうしようか、茶店のおばちゃんにオットセイを連れてきたって思われるな。」
しかし、ともあれ同伴者はしゃっくりを止めるべく茶店の中でコップにいっぱい水を注ぎコップを持ち
上げずに水を飲む、という方法を伝授した。
「ほんとにこれでしゃっくり止ま・・・オウッ!」
お客様は飲んだ水が鼻から出てきたと云って、しゃっくりを止めることに失敗して茶店から戻ってきた。
その結果、結局9番ホールがホールアウトするまでしゃっくりは続いた。
休憩時間に入ると、もう一度レストランでしゃっくりを止める水の飲み方に挑戦してくると云ってカー
トを後にした。
30分後、キャディさんはしゃっくりがどうなったか心配していただけに見事に止まったしゃっくりに満
面の笑みで現れたお客様を見て心底ほっとした。
2000.10.26(くもり)
『手打ち』
谷越えのショートホールにやってきた。
「わ〜あ、このホール、嫌い。」
お客様の1人がそう云ってキャディバックの中から失ってもよさそうな使い古しのボールを取り出した。
「絶対、谷に落ちるもん。」
ニュー・ボールは安全な自分のポケットにしまった。
キャディさんを含めた一同は苦笑した。
ボールも替えていざ、自分の番がまわってくると気合い充分、振りかざしたクラブは「パッチーン」と
奇妙な音とともに天ぷらして距離足りずに谷底に落ちていった。
「顔が上がってるもん!」
同伴者が正面でスィングのチェックをしていて「あれじゃぁ、駄目だ。」と首を振った。
「くっそぉっ、えーい、この野郎っ!」
バシッ
「出た!手打ち。」
キャディさんは自分の顔に平手をくらわせたお客様とそれを見て喜ぶお客様を交互に振り返った。
「・・・。」
確かに手打ちではあるが、平手打ちとでもいうか・・・。
2000.10.27(くもり)
『ライ』
Mちゃんはあらゆる意味で名物キャディだった。
まず第一に声が大きい。普段は人並みの声の持ち主なのだがラウンドに出ると平気で3ホールくらい声が
突き抜ける。もう一つは本人はいたって真面目に云ってることが端から見るとひどくおかしくて笑わずに
はいられない。
キャディさんとMちゃんは前後でスタートすることが多く今日も彼女は前の組のお客様を率いていた。
お客様のティショットが左にひっかかって球を捜しているとそこには球が2つあり、1つはフラットなラ
イに、そしてもう1つはお世辞にもいいライとはいえないような状態でさらにディボットに入り込んで目
を反らしてしまいたくなるような状況にあった。
「すみませ〜んっ!このあたりにボールが転がってきませんでした〜?」
斜面の上から人影とともにMちゃんの大きな声が聞こえてきた。
「あるよー。でもね、わたしのお客さんも同じとこに打っちゃってここに2個あるんだ。」
キャディさん2人とお客様2人はそれぞれのボールを確認することとなった。
皆、いっせいに状態のいいボールに顔を近づけた。するとライのいい方のボールはわたしのお客様だった。
とうことはもう一方のボールの持ち主はMちゃんのお客様ということになる。
「お客さまぁ〜、お気持ちはわかりますけどぉこちらがお客様のボールですぅ!」
悪気のないのーてんきな彼女の声が響き渡った。
「はいよっ!」
2000.10.28(あめ)
『ライン』
小雨だったり時折降り出しだし、雨が降っているというのに日が差したり、今日はそんな天気だった。
グリーンの芝の上には水滴がうっすらと膜を張ったように白く見えた。
どんなにピンから遠くにお客様がいても「キャディさ〜ん、どっちに切れる〜?」と大声で聞かれて
もいつもなら「う〜ん、どっちかなー」と聞かれたキャディさんが悩むような複雑なラインでもこの
日ばかりは自信満々に「ここです!」と断言出来る。
「絶対?絶対そこ?」
としつこいお客様にも「絶対、ここです!」と言い切れる。
「ほんとに?ほんとにそんなに切れるの?」
「切れます!」
なんという疑い深いお客様だろうか。
「ラインの跡が残ってますから、間違いないです!」
キャディさんは胸を張って答えた。
2000.10.29(くもりのちはれ)
『初下ろし』
スタートホールのミドルで2オン。
出だしはまずまず、というところで登場したのが昨日買ってきたばかりというパターだった。
「上りのフックですけど、下からは重いですよ〜」
昨日は一日雨が降っていたのでグリーンもまだよく乾いてはいない。
キャディさんはピンを抜いてバックピンしながらお客様に「アドバイス」した。
「よっしゃーっ!」
気合いとともに打ち放ったファーストパットは、カップを随分とオーバーした。
「・・・。」
今打ったのと同じ距離くらいオーバーしてしまってキャディさんは絶句した。「重い」なんてよけいな
ことを云ったばっかりに打ちすぎてしまったかな、と内心申し訳なく思ったがその後3回パターを使っ
てやっとホールアウトしたのでキャディさんのせいばかりではないな、と思い直した。
「悪夢のようなスタートだ。」
確かに。出だしから4パットというのはショックが大きいだろう。しかも今日は月例。
(17ホール終わったところでこのパターのお蔵行きが決定した。)
2000.10.31(くもりのちあめ)
『ティマーク』
クラブハウスの玄関にゴルフボールの形をした灰皿が設置されて間もない。
駐車場からの階段を上ってくると植木の端にその灰皿は置かれることになった。
駐車場にタバコの吸い殻がよく落ちているからだ。
「おおっ、こんなところにレギュラーティがある。」
そのお客様は今、駐車場から階段を上がってきたばかり。
さっそく灰皿が目に付いたようだが、このゴルフボールの形をした灰皿は白や赤、青色に塗られて
ティグランドのティマーカーの役割をしているゴルフ場もある。それでお客様はとっさにそう云っ
たのだろう。
「おはようございまあすっ!なんなら打ってもいいですよ!」
Mちゃんは元気良くかん高い声で挨拶をすると笑いながらお客様に向かって云った。
「そう?こんな感じ?どお?」
乗りのいいお客様だったので玄関の前で調子に乗ってスタンスを取るとかまえて、ゴルフのスィン
グをして見せた。
「どう?いいショットだったでしょ。」
お客様は朝からご機嫌だった。ところがMちゃんは真剣顔をしてこう云ったのだ。
「2ペナです、出べそでした!」
「・・・。」
Mちゃん、お世辞でもいいから誉めてあげようよ。と隣にいたキャディさんは思った。
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